2016年6月21日火曜日

ゆきとどいた教育ニュース 2016年度第2号(6月7日)

「主権者教育と憲法教育は車の両輪」
吉田俊介弁護士(佐賀中央法律事務所)インタビュー

Q 吉田さんの高校での主権者教育出前授業は、いきさつはどのようなものだったのですか?

A 今年になって県教委から弁護士会に依頼があり、弁護士会で法教育委員会委員長をしている私が対応することになりました。教師向けの研修会を通じて、高校から授業をおこなって欲しいと申し込みがあっています。法教育委員会は、全ての市民を対象に、「法の考え方の習得を通じてよりよい市民として主体的に行動する能力をはぐくむ」ことを目的としています。現在、弁護士の委員約20人が関わっています。

Q 出前授業はどのような形式ですか?

A 全校集会などで全生徒を対象としています。学校からは「体育館で全校生徒を相手に一コマでやってくれ」との注文が多いですが、普通のクラス授業としてやってこそ、感銘力が高いと考えます。12年生は全体でやるとしても、3年生はクラスごとに少人数授業でおこなうのが理想です。

Q 生徒にどのような力をつけたいと感じますか?

A 法(ルール)を作るとは、多様な意見をまとめて合意に至る、ということです。その際、理に従い、相手の意見を踏まえて利益調整を図る能力を養ってほしい。一方で、「多数決」で決まったことでも侵せない「領域」があり、何でも多数決で決められるわけではない。これが「憲法(法の支配・立憲主義)」であり、その考え方も車の両輪として学んでほしい。このどちらの力も養うことが「主権者教育」です。

Q 文科省は副教材を作成していますが、中身をどのように思われますか?

A 主権者教育は、新しい試みであり、県教委・現場の教員・弁護士会や選挙管理委員会などの外部の専門家などが、様々な観点から「生徒たちが主権者として行動していく能力を育む」ための授業を検討している最中です。文科省の副教材もそのための授業づくりの資料の一つであり、参考になるものです。ただ同資料中「合意形成に至る方法」の記述は充実していますが、もう一つの側面である「多数決でも決められない領域」としての「憲法の役割」については、記述が不足しています。主権者教育としては欠かすことのできない側面であり、この点を補っていく必要があると考えます。

Q 今後の出前授業における可能性はどのように感じていますか?

A 主権者教育以外でも、弁護士会では「ワークルール」「刑事模擬裁判体験」「いじめ予防授業」など、様々な出前授業を行うことができます。生徒・児童ひとりひとりが「主体的に」社会に関わっていくための能力を、これらを通じて養ってほしい。なお、PTAが申込の主体となるなど関わってくれたら学校も弁護士会も動きやすいと思います。

貴重なお話し、ありがとうございました。